近年注目されている「プラットフォーム戦略」とは、そもそもどんなもの?
2000年を過ぎたあたりからでしょうか、「プラットフォーム戦略」というワードが、様々なメディアから発せられるようになりました。そしてこれまでプラットフォーム戦略を行使して、大きな成功と収益を収めた企業・サービスも多く登場しています。例えば、「Amazon」や「楽天市場」といったECサイト、「mobage」や「GREE」、「AppStore」といったデジタルコンテンツ・プラットフォーム、最近では個人ワーカーのプラットフォームを構築した「クラウドワークス」等々──。
「プラットフォームを制すれば、おのずと成功がやってくる」といった風潮は依然強くあり、多くの企業が「プラットフォーム戦略」について研究・開発されています。
あるいは「プラットフォーム戦略」と聞いて、皆さんはどのような戦略を思い浮かべるでしょうか?よく耳にする有名なワードではありますが、もしかしたら「詳しく知っていて、きちんと説明できる」という人はまだ少ないかもしれませんね。
プラットフォーム戦略を説明する前に、まず「プラットフォーム」とは何かを定義しておきましょう。プラットフォームとは、「土台」や「基盤」、「場」を意味し、ビジネスシーンで使われる際は「(不特定多数の」顧客向けに、複数の製品やサービスを展開しており、かつ更新可能な環境」といった意味で使われることが多いです。つまり、以下の特徴を持っているということですね。
1) 多くの顧客(会員、利用者、ユーザー)を有している
2) 環境内に製品やサービスを複数掲げており、追加や変更などの更新が可能である
ちなみに、2)の製品やサービスを自社以外の企業からも参加可能としているプラットフォームを、「オープン・プラットフォーム」と言い、プラットフォーム戦略が論じられる際は、オープン・プラットフォームの前提で議論されるケースが多いです。
また、その際の構成としてプラットフォーム提供企業と、利用する企業、そして顧客が登場することから、「B to B to C ビジネス」(顧客─企業─企業の関係)と説明されることもあります。
参考:プラットフォーム戦略における【顧客─企業─企業】の関係
なぜ今、プラットフォーム戦略がこれだけ注目されているのか?
そもそも、プラットフォーム戦略は「楽天市場」や「App Store」など、IT分野の進化で活性したビジネスモデルですが、百貨店や築地市場など、プラットフォームの原型は古くから存在していました。ですが、現代において日本だけでなく、アメリカをはじめとした先進国の多くで、新しいプラットフォーム戦略の構築が非常に注目されているのです。いったい、なぜでしょうか?
それは、これからの市場競争の激化人口成熟化の社会では、「顧客との関係性強化」がとても重要になってくるためであり、プラットフォーム戦略こそがその最適な解決策になりえるからです。数ある類似商品・サービスから自社のものを選んでもらうためには、顧客を会員になってもらい関係性を強化し、かつ様々なニーズにも対応しうるように製品・サービスのラインナップを充実していく必要があります。プラットフォーム戦略はまさに、そのような働きかけを行えるようにする為のビジネスモデルなのです。
「プラットフォーム戦略は、1人で1億円稼ぐのではなく、10人で100億円を稼ぐビジネス」という表現をされることがありますが、それは、複数のパートナー企業とアライアンスを組むことによって、顧客ニーズにレバレッジを効かせることができることに由来しています。多くの業界でプラットフォーム戦略が活性することによって、今後各企業は、自前のプラットフォームを構築するか、他社のプラットフォームに参加するか、そのどちらかを選ぶことになるでしょう。
そして、プラットフォーム戦略は業界特化型のものだけでなく、複数の業界を跨ぐようなものもたくさん出てくるでしょう。例えば、自動車がディーラーではなく家電量販店やインターネットで販売される──そんな形態のプラットフォームも出現するかもしれません。なぜなら、天然資源の節約で注目される電気自動車などは、自動車本体は安価で販売または貸し出し、メーカー側は電池交換や充電料金で儲けるというビジネスモデルも検討されているからです。
現在大きな成功を収めているプラットフォームは、どんなものがある?
さて、プラットフォーム戦略の理解をさらに深めていくためにも、現在大きな成功を収めているプラットフォームをいくつかご紹介したいと思います。おそらくどのサービスもすでにご存じではあるかと思いますが、プラットフォーム戦略の観点で見ると、新たな気づきも出てくることでしょう。
■プラットフォーム戦略事例1) 「iTunes」
コンピューターメーカーとして「マッキントッシュ」というブランドを確立し、一時は業績が低迷し売却話まで持ち上がっていたものの、その後「iPod」や「iPhone」といった世界的な大ヒット商品を次々と生み出し、今や世界を代表する企業にまで成長したアップル社。アップル社の開発したプラットフォームと言えば、「App Store」、「iTunes」が有名ですが、今回は音楽業界に多大な影響を与えた「iTunes」にフォーカスを充てたいと思います。
それまでレコード盤、CDといったハードウエアの形態で流通してきた音楽コンテンツを、アップル社はインターネット上でデータとして流通させる大規模なプラットフォーム「iTunes」を提供し、瞬く間に世界中の音楽リスナーから受け入れられました。今では、あらゆる音楽コンテンツ・映像コンテンツが「iTunes」上を流通する状況が出来上がり、アップル社はもはや単なるコンピューターメーカーではない、「iTunes」というプラットフォームを持つ「コンテンツ・インフラ企業」にもなったのです。
今では多くの人たちがiTunesやそれに類似する楽曲配信サイト経由で楽曲や動画を入手しています。コンテンツのラインナップも豊富で、メジャー楽曲からマイナーな曲まで幅広く網羅されているところも、プラットフォームだからこそ成しえたメリットと言えるでしょう。
■プラットフォーム戦略事例2) 「楽天市場」
プラットフォーム戦略での成功事例として次にご紹介するのは、楽天株式会社の運営する「楽天市場」。日本最大のインターネット・ショッピングモールである「楽天市場」は、各地に散らばる店舗に対してオンラインの仮想商店街のスペース(ページ)を提供するという、ECサイトのプラットフォーム化を実現しました。同社では、楽天市場のビジネスモデルを「B2B2C型(Business to Business to Consumer)」(※下図参照)と呼んでいますが、プラットフォーム戦略のスキームを研究する上でも知っておくと良いでしょう。
楽天市場の収益源は、出店店舗からの出店料や売上などに応じた手数料になります。そして楽天市場からは、自社開発したインターネット上で店舗を運営していくためのシステムを提供するほか、店舗の売上高を成長させ、店舗と共に課題を解決するコンサルティングサービスを店舗に提供しています。
参考:楽天市場のB2B2C型モデル(掲載元:http://corp.rakuten.co.jp/about/strength/business_model.html )
楽天市場が他のECサイトの追随を許さない首位独走を継続できている理由として挙げられるのは、その膨大な店舗数と顧客数が挙げられます。店舗は楽天市場というプラットフォームが持つ集客数の恩恵を受けることができ、顧客はポイントサービスなどプラットフォーム内の特典を享受できることもあり、より楽天市場への利用頻度が高まります。プラットフォームビジネス好循環のとても良い事例と言えるでしょう。
■ プラットフォーム戦略事例3) 「クラウドワークス」
最後にご紹介するのは、 クラウドワークスの個人ワーカープラットフォーム。
「個人ワーカー」という単語を聞いて、皆さんはどのようなイメージを持たれるでしょうか。
「子育て中の主婦」、「介護をしているビジネスパーソン」、「定年退職後のシニア層」、「仕事を失った地方在住者」等々…。社会に通用するスキルを持ちながらも、正社員としてフルタイムで勤務する機会がないために、その経験を持て余している人というのは実は沢山存在します。そこに目を付け、“たとえ一日一時間のすきま時間でもあっても、彼らの経験や時間を活用することはできないか?”といった問題提起と、プラットフォーム戦略としてチャレンジしたのがクラウドワークスです。
いまや「日本最大級」のクラウドソーシングサービスサイト、クラウドワークスは企業と個人を結びつけ、仕事の受発注を支援するプラットフォームを運営しています。個人ワーカー側は仕事のマッチング・契約・支払いまでオンラインで完結するので、スムーズかつ安心して仕事を選べる場として利用されています。クラウドワークスを利用する企業にとっては、人材調達に関する時間とコストを削減し、社外の優れたアイデアを容易に取り入れられることを大きなメリットと感じ、利用されているようです。
参考:クラウドワークスのビジネスモデル(掲載元:http://www.sbbit.jp/article/cont1/30292)
「個人での働き方の多様性」が求められる現代の流れに合致したクラウドワークスは急成長を遂げており、2012年のサービス開始から、わずか2年あまりでマザーズへの上場を果たしています。2015年9月期の決算では、仕事を受注するユーザー数は前年より257%増の58万人、仕事の総契約額は97%増の6億5600万円、そして、売上高は307.8%増の3億6500万円となり、非常に成長率の高い新興企業のひとつです。
プラットフォーム戦略を成功させるには?
ここまでプラットフォーム戦略の概要と、現在プラットフォーム戦略を成功させている企業の事例を紹介させていただきましたが、ここからは実際にプラットフォーム戦略を企画検討するにあたり、特に重要な点についてお話していきたいと思います。
プラットフォーム戦略企画のポイント1)マーケットとターゲットユーザーを決める
まずはプラットフォーム戦略の対象となるマーケットと、それに紐づくユーザーのターゲット層を決めていきます(セグメンテーション)。マーケットの方向性については皆さんの関わっている事業毎に変わってくるでしょうし、ターゲット層の選定も同様に対象とする製品・サービスによって変わってくるでしょう。ですが、ここで注意したいのは、「すでに同様の製品・サービスはいくつも存在している」前提で検討する必要がある、ということです。現在ある製品・サービスと同じようなマーケット層やユーザーターゲット層を掲げたとしても、そこがブルーオーシャンでない限り、なかなか成功は難しいでしょう。
ここでひとつの視点として意識していただきたいのが、「狙っているマーケット内におけるユーザーや企業の不満ポイント」を意識されると、より新たな発見や方針出しにつなげやすい、ということです。
例えば、「iTunes」は「都市部の大型レコードショップに行かないと、マイナーだけど大好きな楽曲が購入できない」という地方ユーザーの不満を解消させる強力な強みを持っていますし、
「楽天市場」は「高品質な商品を多数持ちながらも、実際の店舗では地域・場所の優位性を獲得できず、かつオンラインでは広告・プロモーションの仕方が分からない」という中小規模の小売業やメーカーの不満を大きく解消させました。
「クラウドワークス」は、「突発的な事務タスクを対応してくれる人が欲しいけれど、アルバイト1人採用するほど定量的にタスクが発生するわけではない」という企業側の悩みを解消させる仕組みを持ちつつ、かつ「スキルと熱意を持ちながらも様々な理由で正社員として働ける状態にない」といった人々に対して、ビジネスチャンスを提供していこうというスタンスが、多くの個人ワーカーの方々から評価されています。
心理学的な観点から説明すると、一定レベルの不満やストレスというのは、次の行動へのエネルギーを強化する為に必要な要素とされています。つまり、狙っているマーケット内の人々が持つ「不満」「ストレス」を、新規プラットフォーム活性化の「ガソリン(原動力)」として活用できると、より成功の角度・可能性を高められる、ということですね。
プラットフォーム戦略企画のポイント2)キャッシュポイントを作る
B to B to Cを前提とするプラットフォーム戦略においては、キャッシュポイントをどこに置くか、という点も非常に重要となってきます。
多くのプラットフォーム企業では、顧客からの支払いをメインの収入源とはせず、プラットフォーム参加企業からのプラットフォーム利用料や手数料を収入源にしているケースが多いようです。また、「楽天市場」や「AppStore」、「mobage」「GREE」などのオンライン型のプラットフォームで、かつ決済システムを用いて顧客からの支払いを一元管理できる機能を有している場合は、顧客からの支払いもいったんプラットフォーム側で集約できているという強みもあります(その後、手数料等プラットフォーム側取り分を除いた金額が参加企業に支払われる仕組み)
つまり、プラットフォーム提供企業は、参加企業からのプラットフォーム利用料か、もしくは顧客の購入時における手数料かで、大きくは2つのキャッシュポイントを設けることができます。どちらのキャッシュポイントを設定するか、もしくは比重を調整すかについては、どれだけ対象(参加企業、顧客)に対して恩恵、メリットを提供できているかを踏まえつつ、決めていくと良いでしょう。
プラットフォーム戦略企画のポイント3)単体では得られない価値を提供する
最後のポイントは、戦略企画で出来上がってきた内容を、「プラットフォームならではの価値発揮ができているか」といった観点からチェックしてみることです。どんなに良いプランであったとしても、一企業で成し得られそうな内容でしたらきっと近い未来には他の企業の参入やリプレイスが起きるでしょう。
プラットフォームならではの、複数の参加企業とともに、エンゲージメントの高い顧客層を抱えられる状態を目指し、そしてその為に参加企業や顧客にしっかりとした価値発揮ができる企画にしていけるよう、発足前のタイミングでしっかりとプランニングしていくことが大切です。
プラットフォーム戦略企画のポイント4)参加企業と、強固なアライアンス・パートナーシップを築く
一企業では成し遂げられない価値発揮を目指すからこそ、参加企業とのパートナーシップ(アライアンス)はしっかりとした信頼関係を築くべきでしょう。まだ実績のないプラットフォームに対して企業に参加してもらうためには、強い信頼関係が必要不可欠です。
そして、相手に信頼してもらうためには、こちらもきちんと相手のことを知り、未来を描き、こちらからも信頼を持つことが大切です。そういった強い絆を持ったパートナーをどれだけ多く用意できるか──プラットフォーム企業は、そういったネットワークの広さもまた、求められるのです。
まとめ 現代は「協創」の時代
プラットフォーム戦略について、ここまで以下の内容について説明いたしましたが、いかがでしたでしょうか。
・プラットフォーム戦略とは何か
・なぜ今プラットフォーム戦略が注目されているのか
・大きな成功を収めたプラットフォーム戦略事例
・「iTunes」 「楽天市場」 「クラウドワークス」
・プラットフォーム戦略を成功させるために
・ マーケットとユーザー層の選定
・キャッシュポイントの設定
・単体では得られない価値提供を考える
・ 参加企業と強固なパートナーシップを築く
現代マーケティングの父と言われている「フィリップ・コトラー」は、現代社会のマーケットのあり方を「マーケティング3.0」と呼んでおり、これからは企業は製品・サービスに「社会的価値(世の中をより良くして行こうという働きかけ)」を発揮していく必要があること、そのため顧客やパートナーとの「協創関係」が今まで以上に重要になることを唱えています。プラットフォーム戦略は、まさにコトラーの提唱するマーケティング3.0の「世の中をより良くしていく働きかけ」と「協創関係」を適えるための戦略とも言えるのではないでしょうか。
本記事をご覧になられた方々が、マーケティング戦略への認識を深められること、また、マーケティング戦略実践の際にお役に立てられることを、心より願っております。
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