「あ、今思いついたアイデア、結構良いかも…」
ふとしたアイデアが、もしかしたら現状を一変させ輝かしい未来へと変えていける効力を持った、素晴らしいものであるかのように感じられることがあります。そのようなとき、私たちはとても活き活きとした気持ちになります。まるで、自分たちの心のうちから新しい生命体が生み出されたかのように。そして、そのアイデアを誰かに話したくてうずうずしだします。
ですが、アイデアを思いついてから何日か経つと、そのアイデアが急に色あせはじめることがあります。「あれ?…なんでこんなアイデアを良いと思っていたんだろう。…こんな穴だらけのアイデア、うまく行くわけないじゃないか」という風に。そして多くの場合、そのアイデアのことをそれ以上考えなくなります。
もしくは、別のケースもあります。思いついたアイデアが気に入って、周囲の人たちにそのアイデアを伝え続けるのです。「…このアイデア、すごく良いと思わない?」と。アイデアを聞いた人たちは、ときに賛同し、ときに無反応で、そしてときに迎合します。ですが、言葉でのみ説明されるアイデアは、なかなか他人からは良し悪しが分からないもので、多くの場合はそのアイデアどうこうよりも、アイデアを話している当人に対しての印象・評価に少なからず影響されているようです。
上と下の2つのケースは、「アイデアを捨てる」と「アイデアを持ち続ける」とで行動は真逆ですが、結果としては同じになることが多いようです。それは、「結局、そのアイデアが実現されることは無かった」ということ。
一体、なぜこんなことになるのでしょうか?アイデアを実現することは、そんなに難しいことなのでしょうか?
アイデアは実現できる
結論から言いましょう。やり方さえ整えれば、アイデアはどんどん実現できます。そして、実現の回数が増えるごとに、アイデアの品質は向上していきます。アイデアが実現できずに悩んでいる人は、実現するための進め方を知らない場合が多いのです。
…こういう言い方をすると、「今のこちらの環境や状況も知らずに、よくそんなことが言えるものだ」と気を悪くされる方もいるかもしれませんね。ですが、まさにその言葉こそ的を得ていると言えるでしょう。…つまり、アイデアは、環境を整えてこそ【育まれる】ものです。そして、まさにその「環境をどう整えるか」を知ることが、アイデアを実現する為に、とても重要なポイントなのです。
さて、ここからはアイデアを実現する流れとして、以下の3ステップの流れで説明していきたいと思います。そして、それぞれのステップでは、どのような行動・アクションが必要なのか、また環境をどう整えていくのが良いのかについて、説明していきます。
・Step1 「知る」 世の中と周囲と自身を「知る」こと。そして「気付き」を多く得ること
・Step2 「学ぶ」 気付きを良質なアイデアに昇華していく為に「学ぶ」こと
・Step3 「創る」 アイデアを形にしていく(実現していく)ために「創る」こと
Step1 「知る」
世の中と周囲と自身を「知る」こと。そして「気付き」を多く得ること
アイデアを思いついて形にすることを、よく「0から1を作る」と表現します。アイデアを作るというのは、本当に0として何もないところから創造する作業なのでしょうか?
その問いに対する回答は、世の中で数千と出回っているアイデア本のなかでも、数十年経ってもなお高く評価され続けている名著「アイデアの作り方 (Technique for Producing Ideas)」(ジェームズ・ウェブ・ヤング著)に書かれている一節をもって、お応えしたいと思います。すなわち、
「知識は(新しいアイデアを創造するうえで)役立つがそれだけでは十分ではない。消化された知識が、別の知識や情報と組み合わされて新しい形になって、初めてアイデアとして輝き始めるのだ」
もう少しシンプルな言い方をすると【アイデアは、持ち前の知識だけでは創造できない。既にある事象との組み合わせによって創り上げようとすることが大切なのだ】ということを言っているのです。つまり、アイデアは一握りの天才(例えばアインシュタインやスティーブ・ジョブズのような人たち)がゼロから終わりまで生み出すものというよりも、これまでの情報や事実の組み合わせで、(誰でも)生み出すものができるもの、ということです。
では、その「情報や事実の組み合わせ」によるアイデアの生成はどのように行えば良いのかというと、上記書籍では以下の5つの段階に分けています。
アイデア生成の5段階
1) データを集める
2) データの咀嚼
3) データの組み合わせ
4) ユーレカ(発見!)の瞬間
5) アイデアのチェック
「Step1知る」のフェーズにおいては、上の5段階のうち1)~2) を実行できる環境を整えるということが大切になります。内容自体はとてもシンプルなので、「なんだ、結構簡単じゃないか」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、多くの場合これらの作業には、実際相当な知的作業が発生します。例えば、アイデアを一つ産み出すために1)の「データを集める」というのはどれだけデータを集めればよいのでしょうか? 2)の「データの咀嚼」とは、どれだけひとつひとつのデータの理解を深めればよいのでしょうか?3)の「データの組み合わせ」とは、どれだけの組み合わせ数が大切なのでしょうか?
ここで多くの人が陥ってしまうのが、「少ないデータ量のみで判断し進めようとする」という行為です。データ量が少ないと、判断の根拠も乏しくなりますし、なによりもデータの組み合わせのパターンも少なくなってしまいます。ですので、このフェーズでは「データの量を増やす」ということが特に大切になります。
良いアウトプットを出すためには、それだけ沢山のインプットが無いと成り立ちません。皆さんの今の環境は、インプットをたくさん得られるものになっているでしょうか。インプットを行うための時間を確保しておく必要があるでしょうし、そのための機会も多く用意する必要があります。または、異業種などの多様性あるメンバーで話し合うことも大切です。異なる価値観の人が集まってインプット内容を吟味しあうことによって、2)の「データの咀嚼」の品質は格段に向上されるのです。
良いアイデアを生み出すために、まずはアイデアの源泉となる「データの量を増やす」こと。そしてそれをしっかり話し合うこと。そこで多くの「気付き」を培っていくのです。
皆さんのオフィスや業務スペースでは、「データの量を増やす」環境が整われているでしょうか?インプットされたデータを吟味し話し合える環境は用意されているでしょうか?そして、皆さん自身も環境を整えていこうと意識して取り組まれていますでしょうか?
アイデアを生み出そうとする際には、そういった環境づくりを意識することが、とても大切なのです。
Step2 「学ぶ」
気付きを良質なアイデアに昇華していく為に「学ぶ」こと
続いては、アイデアの元となるデータの量と気付きを増やし、それらを良質なアイデアに昇華していく為に「学ぶ」フェーズについて説明していきます。
情報量は同じでも、アイデアを思いつくのがとても早い人もいれば、「なかなか思いつかない…」という人もいます。一体、アイデアや企画を出すのが得意と言われる人の頭の中はどうなっているのでしょうか?
よく言われているのは、彼らの思考は、頭の中でこれまでインプットされた情報がイメージ化(図表化)されている、ということです。反面アイデアがなかなか思いつかないという人は、これまでの情報を箇条書きやカテゴリ別に整理するにとどまっているケースが多いと言われています。
アイデアを思いつくのが得意な人が頭の中で描いているイメージにはどんなものがあるでしょうか。イメージは人によってさまざまあるようですが、ここでいくつか代表的なものを取り上げていきたいと思います。──もしかしたら、あなたにも合うイメージ化の方法があるかもしれません。
「因果関係図」:各要素の因果関係や相関関係を結んでいき創られるイメージ図
一つ目のイメージ化の方法は「因果関係図」です。多くの人が使用しており、イメージ化の方法としては一番スタンダードかもしれません。これは、これまで収集した様々な情報を要素に分け、そして各要素で関係しあうもの(または相反し合うもの)を線や記号で結んでいく手法です。
要素の繋がりを足していくことによって、思いもよらなかった要素同士の関係や潜在化されていた要素に気付いたり、新たな発展を予測することができたりするのが、このイメージ図の特徴です。
注意点としては、1人の人間が作る因果関係図は客観的要素が欠落されていたり、多角的な視点で見えていないことが多々あることが挙げられます。因果関係図を作成したら、チームメンバーなど周囲の人と共有して、意見を仰ぎつつ、イメージ図を更にブラッシュアップしていくと良いでしょう。
マンダラート:閃きを繋げていき、思考・意識を掘り下げていく手法
続いて紹介するのは、「マンダラート」という、1987年に今泉浩晃氏によって考え出されたアイデア発想法です。
はじめに、9個のマス目(3×3)が書かれた紙やホワイトボードを用意します。発想するテーマを真ん中に書き、周りの8つのマスに関連するアイデアや思いつきを書いてきます。
記述した8マスの中の1つを、さらに9個のマス目が書かれた別の紙の真ん中にセットし、再び関連するアイデアを埋めていきます。あとは満足するまでこの工程を何度も繰り返す、という手法です。
心理学にて個人の深層にある意識・思考を導き出す際に使われていた手法をアイデア発想用にアレンジしたもので、普段全く意識していなかったような無意識領域がふっと浮かび上がってくることもあるユニークなイメージ化の手法です。
なぜなぜ分析:多くの企業でも実施されている論理的思考フレームワーク
続いて紹介する方法は、「なぜなぜ分析」です。聞いたことある、という方も多いかもしれませんね。「なぜなぜ分析」とは、トヨタが実施する”1つの事象に対して、5回の「なぜ」をぶつけてみる“という問題解決の発想法です。
はじめに考えたいテーマを1つ挙げて、その後そのテーマについて「なぜ○○なのか?」を自問自答していきます。それを繰り返すことによって、テーマの裏に隠れている本質的な原因を突きとめることがができるのです。問題解決としてのアイデアを出すときに、とても有効な思考ツールです。
ギャップアプローチ:
対象の欠点・ストレスポイントを「突破口」とみなして対策を見出していく思考方法
続いては「ギャップアプローチ」を紹介しましょう。ギャップアプローチとは、対象の欠点や欠陥、ストレスポイントなどを列挙してアイデアを着装する手法です。欠点列挙奉と呼ばれることもあります。
欠点を探す際は、まるで競合の商品を分析するように,徹底的にあら探しを行います。そして問題点を列挙したのちに、それらを改善点を克服した状態をイメージし、その方法を考えていきます。
近年の社会で発生しているイノベーションは、人々が感じるストレスポイントからのギャップアプローチからによるものが多いと言われています。人はやはり、より便利で快適な社会・生活を目指そうというモチベーションの強い生き物なのかもしれませんね。
ポジティブアプローチ:
「ありたい姿」「目指したい将来」をイメージして、それを実現するための対策を考える方法
最後に紹介するのは「ポジティブアプローチ」。「希望点列挙法」と呼ばれることもあります。ポジティブアプローチとは「こうありたい」「こんなのがあればいいな」という希望や願望から発想するアイデアフレームワークです。
当たり前とされている現実から一旦身を離して、事象に対する理想を挙げていきます。例えば、一度短中期の予算・コストを度外視して企業の長期的な成長を考えてみる…であったり。ポジティブアプローチは現状の制約にとらわれないため、革新的なアイデアを見つけることが多いと言われています。
如何でしょうか。ここまで、アイデアを出していく為の5つの方法を案内しました。どれかひとつやふたつは、あなたに合ったものであったり、丁度検討していたテーマと親和性がありそうなものだったりするのではないでしょうか。アイデアを実現していく上で大切なことの一つに、「イメージを形にする」ということがあります。頭の中のイメージをしっかりと図や表に移し、仲間と共有し合う状況を創るということですね。
ですが、これら思考の方法を知っただけでは、アイデアはまだ実現できません。続いては、アイデアを実現していく上で最も重要な、Step3「創る」フェーズについて説明していきます。
・Step3 「創る」
アイデアを形にしていく(実現していく)ために「創る」こと
成功の循環サイクル
もしあなたが今取り組んでいるアイデア創出が、完全な個人作業ではなくチームで取り組むものであったり、企業などの組織からの協力が必要不可欠なものならば(…多くの場合そう当てはまるでしょうが)、以下の「成功の循環サイクル」というフレームを知っておくと良いでしょう。
この図は、チームワークで成功を成し遂げていく際には必ず「関係」→「思考」→「行動」→「結果」→…という循環があり、その循環はグッドサイクルにも、バッドサイクルにもなることを現わしています。
想像してみましょう。あなたが素晴らしいアイデアを思い付いたとしても、あなたのチームの「関係の質」が悪ければ、きっとそのアイデアは正当な評価を受けず(「思考の質は上がらず」)、結果として、「行動の質」「結果の質」も期待するレベルまで到達しいことでしょう。逆に、あなたのアイデアがまだ不完全だったとしても、チームの「関係の質」が良ければ、あなたのアイデアを助けようとする仲間が顕れて、それはきっと「行動の質」「結果の質」にも良い作用を起こすことでしょう。
Step3の「創る」は、何もアイデアの対象だけを指している訳ではありません。アイデアを実現するための環境を「創る」という点も含まれているのです。あなたの環境では、この循環はどのように働いているしょうか…グッドサイクルになっているでしょうか?それとも、バッドサイクルになっているでしょうか?そして、そのサイクルをより良くしていく為にあなた自身が出来ることはあるでしょうか?
「成功の循環サイクル」は多くの大手企業でも取り入れられているフレームです。アイデアや企画の創出を担われている方は是非覚えておくことをお勧めします。
ブレスト:良質な話し合いの場で「共創」を促進する
最後に「ブレスト」という会議手法を紹介します。ブレストとは、ブレインストーミング(Brain Storming:BS法)の略で、「アイデアの神様」の異名を持つアレックス・F・オズボーン氏が1938年に発案した、アイデアを形にして創り上げていく際によく使用される会議手法です。脳(Brain)が集合して、アイデアの嵐(Storming)を起こすかのように、集団で大量のアイデアを出し合うことにより、1人ではなかなか思いつくことのなかったであろう斬新なアイデアを、他人の思考と連鎖反応をおこすことにより生み出すことを狙いとした手法です。会議に参加するメンバーの考え方や得意なジャンルが異なると、その効用はさらに高まると言われています。
ブレストには、以下4つのルールがあります。「ブレストの4原則」と言われるほど、大切なルールです。逆にこれらルールを守らないと、ブレストの効果が全くでない、ということも起こりえますのでご注意ください。
1.批判しない
2.たいしたことのなさそうなアイデアも歓迎する(自由奔放)
3.質より量を重視
4.アイデアを連想、結合し便乗する
ブレストの一番重要な点として、「会議の参加メンバーの多様性を尊重する」ことです。これにより、一つのアイデアを様々な方面から見ることが出来、精度・品質を上げていくことが出来るのです。そのためには、参加メンバーとの相互信頼関係がしっかり形成されている環境が不可欠になることは、言うまでもありません。
また、ブレストの進め方としては以下を意識すると良いでしょう。
・ ブレストの目的を明確にし、参加メンバー全員がその目的を認知する
・ 適正な人数(3~10人が望ましい)と人選(なるべく違う背景を持った人を集める)
・ 「決められた時間内でアイデアを出し切る」という共通認識を持つ
おわりに アイデアを創りやすい環境を目指して
ここまで、アイデアの実現に向けて、Step1「知る」、Step2「学ぶ」、そしてStep3「創る」の順に説明いたしましたが、如何でしたでしょうか。
インターネットの発展が進んだ現代社会において、世の中は情報に溢れ、技術革新のペースはどんどん早まってきています。そのような世の中で、「新しいアイデアを産み出す」ということは、決して簡単なことではなくなってきています。ですが、にもかかわらず多くの人たちは素晴らしいアイデアの発見と実現を夢見て(そして多くの場合、そのアイデアの発起人が自分であることを願いながら)、がむしゃらに頑張ろうとします。
思うに良いアイデアというものは、「自分が欲しているもの」ではなく、「社会や世の中が欲しているもの」としての様相が強いものなのではないでしょうか。そして、そのようなアイデアを実現するためには、個人の努力や根性論だけで進めようとはせずに、世の中をより深く「知る」こと、知ったものを更に理解を深めアイデアにしていく為に「学ぶ」こと、そしてそのアイデアを形にしていく為に「創る」ことをきちんと意識していくことがとても大切だと考えます。
そして、それら「知る」「学ぶ」「創る」を進めていく上で重要なことは、そのための環境を整えていくこと、そしてその環境を活用して仲間・チームメイトと「共創」していくことだと、私達は考えています。
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LeverageShare編集部
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