あなたの組織は「強者の戦略」「弱者の戦略」どちらを目指していますか?
今回は「ランチェスター戦略」についてお話していきたいと思います。「名前くらいは聞いたことがある」という方も多いかもしれませんね。ですが、これを今お読みになっているあなたが経営者の方や経営戦略を担う方だとしたら、ランチェスター戦略をして「聞いたことがある」程度の知識しかないとしたら、もしかしたら、それは由々しき問題でもあるかもしれません。
なぜなら、ランチェスター戦略は、世界でもっとも多くの企業・組織で活用されている戦略の1つであるからです。
そもそも、ランチェスター戦略とは何か?
ランチェスター戦略とは、特定の競争社会に参加する団体(企業や国家などの団体)を「強者」と「弱者」に分け、それぞれの戦略の定石を定義したものです。ビジネスでいうと、特定の業界やマーケットにおける競争社会での強者と弱者それぞれの戦略を定義している、ということですね。
ここでまず重要となってくるのが、「強者」と「弱者」の定義です。ランチェスター戦略で言うところの「強者」とは、その業界・マーケット上でトップシェアを取っている企業が「強者」になります。つまり、その分野でのNo1のみが強者となる、ということです。それ以外の企業はすべて「弱者」として定義されます。
そして、ランチェスター戦略においては、「兵力」(=社員数、営業人員数、営業力)が高いことは競争社会において圧倒的に有利になることを説明しています。その度合いについては、以下の数式で表わしています。
※ 少しでもわかりやすくお伝えできますように、営業会社を例に、かつ「兵力」を「営業力(営業人員数)」に置き換えて説明しています。実際は広告宣伝費や販売促進費などの要素も加味されますので、そのうえでご確認ください。
◇現代の競争社会における、ランチェスター戦略の基本公式
戦闘力 = 兵力の2乗 × 武器効力
◇上記公式を営業会社で表わした場合
営業会社の強さ = 営業力(営業人員数)の2乗 × 商品の品質
例えば、営業人員数100名のA社と、営業人員数10名だが、商品の品質がA社の2倍高いB社があったとします。その場合の営業会社の強さは、以下のようになります。
上記表を見て、「ちょ、ちょっと…A社の営業力がB社の10倍だったとしても、会社の強さがB社の50倍になるのは、いくらなんでも…さすがにそこまでにはならないんじゃないの?」
と思われた方もいらっしゃるかもしれませんね。たしかに、今から起業を志している方や、新興のベンチャー企業として日々汗水を流し取り組まれている方からすると、ややショッキングな数値でしょう。
なぜ営業力(ランチェスター戦略で「兵力」とされる部分)が2乗もの影響を及ぼすのか──、それについてはしっかりとした公式もありますが、それを説明だけで数ページ分にわたる説明になってしまいますので、ご興味ある方はランチェスター戦略専門の書籍をご確認いただけますようお願いします(「世界一わかりやすいランチェスター戦略の授業」(福永雅文:著 かんき出版)がお奨めです)。
ここでは、以下のように認識しておいてください。古い時代の市場競争はいわば「【限られた場所・地域に存在し、かつほぼ同様の価値観・考え方を持つ顧客】をどれだけ多く獲得するか」というケースが多かったことに対して、現代社会の市場競争においては「【広域かつ点在して存在する、考え方や価値観も多様化してきている顧客】にアプローチする為の、接近型・遠隔型を駆使した総力戦」に移り変わってきているということです。
そして、現代型の市場競争の際には数多くのトライ&エラーが必要となるため、その膨大な行動量を適えられるような「圧倒的なリソース(=営業力)」を持つ企業が強者となりやすい、ということなのです。
これだけ聞くと、「それじゃあ営業力の低い企業は、まったく勝ち目がないではないか…」と思われるかもしれません。先ほどの「強者」「弱者」で言うと、圧倒的強者のみが有利になる、ということになりますからね。
ですが、ランチェスター戦略はそんな大多数の企業に対しては、「弱者の戦略」を選択することで、「生き残り、勝ち上がっていく為の勝ち筋(すじ)ができる」としているのです。
2乗もの効果を及ぼす「営業力(兵力)」に立ち向かうための、No2以下多数の弱者が取れる戦略とは、いったいどのようなものなのでしょうか?──続いてはその、ランチェスター戦略で言うところの「弱者の戦略」について見ていきましょう。
圧倒的大多数の企業に必要とされる、「弱者の戦略」とは?
ランチェスター戦略の「弱者の戦略」は、シンプルに言うと「強者に差別化できるような武器(サービス製品やソリューション、技術など)を持ち、かつ絞り込まれたエリア・ターゲットを創出し、そこで勝負していく」ことです。
ランチェスター戦略の「弱者の戦略」:
(1)強者に差別化できるような武器(サービス製品やソリューション、技術など)を持つこと
(2)絞り込まれたエリア・ターゲットを創出し、そこで勝負していくこと
先ほど、現代社会の市場競争は「広域かつ点在して存在する、考え方や価値観も多様化してきている顧客にアプローチする為の、接近型・遠隔型を駆使した総力戦」ということをお話しました。
そして、そこに正面から戦っていくのが「強者の戦略」です。対する弱者の戦略は、上記の(2)を行うことにより、ターゲットを局地化させ、よりシンプルな状態にすることによって、戦いやすくして行くことなのです。ちなみに、ランチェスター戦略においては、局地化された競争になる際は、強さの公式は以下のようになると説明しています。
◇ランチェスター戦略の基本公式(局地化された競争の場合)
戦闘力 = 兵力 × 武器効力
◇上記公式を営業会社で表わした場合
営業会社の強さ = 営業力(営業人員数) × 商品の品質
つまり、局地化された競争においては、兵力の「2乗」という効果は発生しなくなるので、より「武器効力」(たとえば、商品の品質や、サービス・ソリューションの独自性や優位性等)で勝負されやすくなる、ということですね。
つまり、No2以下の弱者の戦略は、「いかにターゲットを局地化させるか」ということが重要となります。ですが、その「局地化」とは、そもそもどのような行動を指すのでしょうか。
──ということで、続いては、ターゲットの局地化についてお話していきましょう。
「弱者の戦略」では、どのような局地展開が考えられるか?
弱者のランチェスター戦略ではターゲットの局地化が重要である、ということをお話しました。
局地化には「地域の局地化」、「場所の局地化」、「時間・時期の局地化」など様々ありますが、どれに対しても、まずはそこに存在する顧客・ユーザーの行動・趣向を意識しての局地化を検討していくことが大切です。特に人々の価値観・思考が多様化している現代社会では、「人々の行動パターンや趣向」は新しいニーズも生成されやすく、新規参入の余地も産まれやすいと言えるでしょう。
局地化のターゲティングを行う際には、その土俵に「顧客がきちんと一定以上いるか」という点と合わせて、「競合相手がいない(もしくは殆ど少ない)状態であるか」を見据えることが大切です。すでに競合がいて、更にその相手が自分たちよりも規模が多きい存在であった場合、強者のランチェスター戦略で言うところの「兵力」(「規模の経済」の原理)にどうしても後れを取ってしまうからです。つまり、弱者の戦略では、「ニッチ戦略」を目指すということですね。
ニッチな土壌を探すためには、以下のような思考プロセスを用いると整理しやすくなります。
◇弱者の戦略における、局地化の土壌を見出していく為(ターゲティング)の思考プロセス
◇局地化のターゲティングをしていく際に、意識していくこと
(1) その土俵に顧客・ユーザーがきちんと一定以上いるか
(2) 競合相手がいない(もしくは殆ど少ない)状態であるか
ここまでで、弱者のランチェスター戦略における、局地化展開の進め方についてはご理解いただけたかと思います。ですが、「実際のケースも見てみないと、明確にイメージできない」という方もいらっしゃることでしょう。そこで続いては、具体的な事例を用いて、弱者のランチェスター戦略に適った行動を取って成功・成長を遂げた企業を紹介していきます。
ランチェスター戦略を取り入れ、成長を果たした企業例は──?
■ ケース1 既存の大手企業を唸らせた、ソフトバンク社の「低価格戦略」
ランチェスター戦略を取り上げる際に、事例で良く挙がってくるのが現在も孫正義氏がリードし続けているソフトバンク社です。ソフトバンク社の行った最初の局地化・差別化は、シンプルではありながらも、とても大胆な低価格戦略でした。
「ソフトバンクの低価格戦略」というと、2001年のYahooBB!が起こした、インターネット回線の価格破壊を思い浮かべた方も多いのではないでしょうか(当時、ADSL事業の多くが1.5Mbps接続で月額5,000円前後だったのに対して、YahooBB!は8Mbps接続で月額約3,000円という低価格で参入しました)。
その後参入したモバイル事業では「通話0円、メール0円」「端末全機種0円」などと訴求する広告を新聞などで展開し、多くの人たちに衝撃を与えました(こちらに関しては、公正取引委員会が価格表示について警告を出し、NTTドコモやauなどの競合を含めて、わかりにくい表記を是正するという出来事もありましたが)。
結果、消費者・ユーザーに対して「ソフトバンクは低価格」というブランド知覚価値はしっかり植え付けることに成功し、当時ドコモやauに完全に属さない(ロイヤルカスタマー化されていない)顧客からの流入を増やして行けたのです。
その後も、ソフトバンクの局地化・差別化戦略は続きます。いち早く学生向けサービスの強化を行い、未成年層からの関心を勝ち取り、更には2008年7月のiPhone発売からはiPhoneの拡販にリソースを集中させ、どのキャリアよりもいち早くiPhoneスマホ市場に投資を集中特化していきました。
このあたりからソフトバンク社は「低価格」重視の局地化・差別化という世間からの評価から、「常にいち早く、最新のサービスや価値を提供してくれる」企業としてのブランドが定着してきました。
ソフトバンクは現在も「弱者のランチェスター戦略」の手を緩めていません。最近では幅広い分野における海外展開を手掛けており、ここまで大きな成長を遂げた今もなお、常に新しい局地化・差別化の道を模索しているように見受けられます。
■ケース2 サイゲーム社の、「唯一無二までの、イラストレーション画力」
続いては、サイバーエージェント社のグループ会社であり、またスマホゲーム開発の最大手ともされるサイゲームス社の事例です。サイゲームス社は設立してまだ5年ほどではありますが、すでに従業員数は1,200名を超え、親会社のサイバーエージェント社の売り上げ構成の非常に大きな部分を占めるまでに成長し、現在もその勢いは止まらずにいます。
サイゲームス社のスタートアップからの大きな躍進のきっかけとなったのは、ゲーム・プラットフォーム「mobage」(DeNA社提供)内でリリースされた「神撃のバハムート」の好セールスです。当時爆発的にヒットしたこのゲームの一番の差別化は、ゲーム内のキャラクターイラストの、圧倒的なまでの美麗さでした。
当時スマホゲーム市場では、すでに多くのゲームデベロッパーが参入しており、ちょうどカードゲーム全盛期であした。ですので、様々な会社が自社のゲーム内で様々なキャラクターイラストを展開しており、その品質は決して低いものではなかったのですが、サイゲームス社は以下の取り組みによって、他社のイラストの群を大きく抜いた品質を目指し、そして実現させたのです。
1)非常に画力の高い有名・著名なイラストレータの登用(また、そういったイラストレータ、デザイナーを大切にする組織風土の醸成)
2)イラストを描くための、かつゲームユーザーがよりイラストの世界観を感じていただけるための、ゲーム本編には登場しない裏側の細かい設定ストーリー(人物たちのバックボーンや情景の説明等)の構築
3)美しいイラストを最大限きめ細かく表示していけるための、様々な工夫(スマホ画像で通例化されていたピクセル以上の細かさで表現するなど)
もちろん、ゲーム全体の品質も非常に高いものでもあったのですが、なによりも「前例を見ない美しいビジュアルにこだわったゲーム」として多くのユーザより熱い支持を得て、そして記録的な大ヒットゲームとなったのです。
サイゲームス社のイラスト・デザインへのこだわりは今も変わらず持ち続けており、そして、多くのゲームユーザーを魅了し続けています。
まとめ
ソフトバンク社とサイゲームス社の事例を用いながら、ランチェスター戦略について説明してきましたが、如何でしたでしょうか。ここまで説明してきた内容のポイントを、ざっとまとめてみましょう。
・ランチェスター戦略とは、特定の競争社会に参加する団体(企業や国家などの団体)を
「強者」と「弱者」に分け、それぞれの戦略の定石を定義したものである
・ ランチェスター戦略でいう「強者」とは、その分野におけるNo1であり、それ以外の
No2以下は「弱者」に区分される
・現代の競争社会においては、「兵力」(会社規模や営業リソース、予算の潤沢さ等)を
持つことが圧倒的有利であり、その兵力を以ってマーケットを占有していくのが
「強者のランチェスター戦略」である
・ 逆に「弱者のランチェスター戦略」は、「強者に差別化できるような武器
(サービス製品やソリューション、技術など)を持ち、かつ絞り込まれた
エリア・ターゲットを創出し、そこで勝負していく」ことであり、自社の優位性・独自性
を発揮していく為の局地化展開を目指していくことが大切である
・ 局地化・差別化展開をしていく際には、
【1.誰に対して提供するか?(顧客属性)】
【2.何の価値を提供するか?(提供価値)】
【3.いつ、どこで提供するか?(提供範囲)】
【4.どのように提供するか?(提供方法)】
といった思考プロセスで検討していき、ターゲットの絞り込みをしていくことが望ましい
・ ターゲットの絞り込みの際には、
【その土俵に顧客・ユーザーがきちんと一定以上いるか】
【競合相手がいない(もしくは殆ど少ない)状態であるか】
をしっかり見据えつつ、絞り込んでいくことが重要である。
こうしてみると、ランチェスター戦略というのは、強者に向けたものというよりは、「弱者には弱者の戦い方がある」というメッセージが強く込められているようにも感じられるのではないでしょうか。
皆さんの組織では、ランチェスター戦略は行われておりますでしょうか。行われているとしたら、それは「強者の戦略」でしょうか、それとも「弱者の戦略」でしょうか──。振り返ってみた時に、そこで「もしかしたらこうした方が良いかもしれない」と感じるポイントがあるようでしたら、それは今後の成長に向けての、大きな新しいチャレンジの種になるかもしれません。
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LeverageShare編集部
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