「ブランディング」って具体的にどういうものか、説明できますか?
「これからは、ブランド力がものを言う。当社もブランディングに力を入れるべきだ」
このような台詞を、一度は聞かれたことはあるのではないでしょうか。代表の朝礼や会議の場であったり、戦略会議中の発言であったり、はたまたコンサルタントからの提言であったり──多くの場合、周囲の聴いている人たちは「うんうん」と頷き同意しています。ですが、「ブランディングに力を入れる」と言っても、具体的に何をすればよいのでしょうか。
そもそもの、ブランドの意味
「ブランド」という言葉の語源は、牛を放牧していた牧童が「他人の牛と自分の牛を区別するために」ということで牛のわき腹に焼き印を押した(「burned」:焼き印を押す)ことから由来されていると言われています。そして、その焼き印の風習に則った形でブランディングを実現した企業の先駆けとして、P&Gの創始者であるハリー・プロクターが、これまでは巨大な棒状であった石けんを、現在の石鹸のような形に小型に成型し、更に「アイボリー」という商標を(焼き印を押したように)つけて個別に包装して売りだした結果、一躍大ヒット商品となったことが知られています。
ここまでお読みになられて、「なんだか思い描いていた『ブランド』のイメージと違う」と思われた方もいるかもしれませんね。「ブランド」という単語を耳にすると、メルセデス・ベンツやルイ・ヴィトンやグッチ、神戸牛やゴディバなど、各分野における高級品メーカーのイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。ですが、それはブランドに対する捉え方にやや誤解があります。
そもそものブランドの意味としては、ブランド品を指すのではなく、「顧客が価値を感じるもの全て」を指します。その言葉の定義からすると、高級商品ばかりがブランドなのではなく、どのような商品・サービスも、そして企業自体もブランドになり得るということですね。
「顧客が価値を感じる」ということは、つまり「購入してくれるようになる」ことです。言い換えると、「顧客にて購買意欲が発生したとき、顧客にその企業や商品・サービスを思い起こさせ、購買に影響を及ぼすもの」──それが、ブランドです。
では、「ブランディング」とは?
続いて、ブランディングの定義についても説明していきましょう。「ブランディング」とは、ある商品やサービスのコンセプトを顧客に価値があると認識させ、マーケット上でのポジショニングを築くマーケティング戦略の一環のことを指します。
企業はブランディングを確立させることによって、商品やサービスに対して、顧客から「価値」とともに「共感」や「信頼」などを得られるため、そこでファンとなってくれた顧客を獲得することができ、売上に繋げることができます。
ここまでの説明で、「おや?」と思った方はいましたでしょうか。「ブランディングは、マーケティング戦略の一環」と説明しましたが、ブランディングに対して、もっと企業の基盤とした概念のイメージを持たれていたという方もいらっしゃるかと思います。確かに、顧客(消費者)からすると、企業や商品のブランドは、最初に目にしたり感じたりするものです。ですが、提供する側である企業からすると、ブランディング構築の前にいくつか確立しておくべき層があるのです。
参考:企業におけるブランディングの位置づけ
企業はまず、「顧客に価値を創造する」「永続企業を目指す」といった目的のためにそれぞれの理念・ビジョンを打ち立てます。そして、その理念・ビジョンを現実化していくための経営戦略を建てます。更にはそれを効果的・効率的に実現していくためのマーケティング戦略を行い、そしてそのひとつにブランディングがあるのです。これが、利用側ではなく提供側に立った、ブランディングの位置づけになります。
ブランディングは、ほとんどの商売において重要なマーケティング戦略であり、古くから行われてきました。皆さんの周囲に存在する近所の八百屋さんや駄菓子屋さんも例外ではないでしょう。もしそこで皆さんが購買活動をされているとしたら、それらのお店に対して何らかのイメージを持っているからであり、そして何らかの価値を感じているからではないでしょうか。
──例えば、使い勝手の良さであったり、商品の新鮮さであったり、店主の気前の良さであったり──それらの「何らか」のイメージ、価値というものは、その店舗や企業がブランディングしていった結果によるものなのです。そしてそのブランディングの背景には、マーケティング戦略や経営戦略、そして店舗や企業の「想い」としての経営理念やビジョンが存在している、ということですね。
現代において、ブランディングが一層求められている理由
さて、現代において「ブランディング」はこれまでより一層大切なものとされてきています。それはなぜか──その前に、「コモディティ」というワードについて触れておきましょう。
コモディティとは、すでにその価値が一般化されたため、顧客や消費者にとって「それを特別なもの」と感じさせることが困難になった商品やサービスのことを指します。提供側からすると、類似する他社の商品やサービスと差別化がされにくくなったもの、ということですね。こう説明すると、今の世の中で、逆に「コモディティ化されていない商品・サービス」のほうが圧倒的に少ない、ということにお気づきになるのではないでしょうか。
資本主義経済も飽和化してきた昨今においても、企業や商品・サービスの数も増え続け、同じような商品・サービスが店頭やネットで立ち並んでいます。更には、社会や人々の価値観の変化のスピードも速く、SNSなどのインターネットを介した情報通信は提供側だけでなく消費者からの情報発信も活性化させ、それは不祥事発覚やその後の伝播をはじめとした企業をとりまく環境の激変も巻き起こしました。
このような中で顧客・消費者は、今まで以上に「安心・信頼」できる企業や商品・サービスと付き合っていきたい、購入したいという欲求が高まっています。企業としては、顧客・消費者から選ばれる企業にならないと、自社の商品・サービスを購入してもらえなくなってしまいます。だから、ブランディングが必要なのです。
「現代マーケティングの父」と言われるフィリップ・コトラーは、「ブランド化がされていないならば、その商品はコモディティにすぎない」と述べています。自社の出す商品・サービスが他の競合会社と変わらないものであれば、顧客・消費者からは関心を持たれなくなってしまう、ということですね。
参考:商品・サービス群におけるコモディティ化とブランディングの関係
ブランディングによる「価値向上のメカニズム」とは
ここまで、ブランディングの持つ意味と役割、そして現代社会においてブランディングがより重要な位置づけになってきていることを説明しました。では、実際にブランディングを行って、商品やサービスの価値を向上していくためにはどのようにしていけばよいのでしょうか。
ここで、ブランディングによって商品・サービスの価値を向上することを「ブランド価値」という言葉で定義したいと思います。企業は、顧客・消費者視点だけでなく企業視点からブランド価値を見て、構成するその要素について理解を深めることが大切です。企業側から見た場合、ブランド価値を構成する要素を以下の式と図のように表すことができます。
ブランド価値= 商品・サービスの提供価値 × コンテンツ提供価値 × リレーション提供価値
参考:ブランド価値の構成要素
「なんだか急に知らない単語が出てきて訳が分からなくなってきた…」という声も聞こえてきそうですね。それでは、上に記した「商品・サービス提供価値」と「コンテンツ提供価値」、そして「リレーション提供価値」についてそれぞれ説明していきましょう。
商品・サービス提供価値とは
商品・サービス提供価値とは、そもそも商品、サービスが持っている価値のことです。ここでいう価値にはその内容や性能だけでなくネーミングやパッケージデザインといったものも含まれます。この商品・サービス提供価値がブランディングの基礎となります。…つまり、どんなにブランディングを頑張ったとしても、もともとの商品・サービスの価値がないと成り立たない、ということですね(当然のことですが)
コンテンツ提供価値とは
続いて、図左側の「コンテンツ提供価値」について説明しましょう。これは、対象の商品・サービスについて、顧客・消費者にその価値に共感してもらうための情報を提供することを指します。単に商品・サービスの機能や効用面を箇条書きで伝えるのと、「例えば、あなたにはこんな使い方ができます。こんなときにとても便利ですよ」といった風に、顧客の状態やシチュエーションに合った形でストーリー性のあるメッセージで伝えた方が、コンテンツ提供価値は向上していくでしょう。そういった情報を、「どんな風に」そして「どうやって」伝えていくか、という行動の精度を、コンテンツ提供価値と言います。
リレーション提供価値とは
ブランド価値を高めるのはリレーション提供価値について意識することも大切です。これは、商品・サービスから直接提供するものというよりは、「アフターサービス」や「会員向け特典の充実」、「ファンになった顧客の期待に応える為の新商品・サービスの提供」など、リピート(継続)購入に向けて行われる情報提供や企業側の行動になります。これにより、顧客・消費者はその商品・サービスを通して企業に対して一層の好感や信頼を持てるようになる、ということですね。
ブランディングで大きな成功・成長に繋がった企業
さて、「ブランド価値を高めるために」必要な要素として、商品・サービスのそもそもの価値のほかに「コンテンツ提供価値」と「リレーション提供価値」が重要なことを説明しました。概要は理解したものの、「実際、どうやって取り組んでいけばよいの?」という疑問を持たれる方もいらっしゃることでしょう。そこで、ここからは、実際にブランディングを行って大きな成功や成長に繋げられた企業の取り組みについて、いくつか事例をご紹介したいと思います。
①ホンダ「スーパーカブ」の北米でのブランディング
まず初めにご紹介するのは、ホンダ「スーパーカブ」の北米でのブランディング事例です。ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんね。ホンダが「アメリカホンダモーター」として北米に参入した1959年の時点では、すでにハーレー・ダビッドソンがバイク市場のシェア8割近くを牛耳っていました。すでにレッドオーシャンと言えなくもない市場であったにもかかわらず、アメリカホンダモーターの売上はその数年後に、ハーレーをはるかに凌ぐほどに成長していきました。いったい、ホンダはどんな戦略を行ったのでしょうか?
当時の北米では、「バイクと言えばハーレー」といった形で、バイク市場の顧客と言えば、「大型バイクに乗る人」だったのです。ホンダの開発するバイクは、ハーレーと比べるとややこじんまりした、顧客が求める「ダイナミックさ」に欠けるものでした。ですが、ホンダはその状況下で、自分たちのターゲット顧客層を「従来型の大型バイクに乗らない人」という驚くべきセグメンテーションを括りだしたのです。それまでバイクと言えば、黒いレザージャケットを着た荒くれ者が長距離乗るものいうイメージだったのですが、それとは真逆の、相対的に「おとなしい一般市民」が、「普段の日常生活の足として乗るもの」という打ち出しをして、結果、大成功を収めました。
マーケティング戦略もさることながら、「誰でも乗れて、便利なバイク」というコンテンツ提供価値を最大限発揮したホンダの絶妙なブランディング、と言えるでしょう。
②大手ハンバーガーチェーン「マクドナルド」と渡り合った「モスバーガー」のブランディング
二つ目のブランディング事例は、だれもがご存知の、「モスバーガー」。モスバーガー1号店のオープンは、マクドナルドが鳴り物入りで日本進出してきた1971年の翌年、1972年のことでした。当初モスバーガーはわずか3人の創業者によって始められたベンチャー企業。当時すさまじい勢いで拡大し店舗を増やしていくマクドナルドの存在がありながら、何故モスバーガーは挑戦を続けられ、結果今日までの成功(ハンバーガーチェーン店業界2位)を収められたのでしょうか。
モスバーガーは、マクドナルドと正面から対決することはせず、ベンチャーらしい独自路線をとっていきました。当時のマクドナルドは作り置きスタイルで、店頭で注文すればほとんど待つことがなくハンバーガーを購入できたのですが、それに対して、モスバーガーは注文してから作るというスタイルをとりました。注文してから出来上がるまでの時間がかかる代わりに、出来立ての従業員の手作り感の籠ったハンバーガーを提供したのです。また、品質を高く保つように、野菜などは生産者の名前を店頭に表示するといった工夫をするとともに、ライスバーガーのような独特な商品戦略もおこなっていきました。その結果、「マクドナルドよりも高いけれど、一段おいしいハンバーガーを食べられる店」というブランドを確立するに至ったのです。
ちなみに、モスバーガー(MOS BERGER)の「MOS」は、
・Mountain(「山」の如く遥かなる高みを目指し)
・Ocean(「海」の如くあらゆる汚れを浄化し)
・Sun(「太陽」の如く生きとし生ける全ての者に惜しみ無き愛情を)
という信念を表しています。他のファストフード店と比べて、商品・サービスに対する情熱や愛情の強さを感じられるのではないでしょうか。
商品そのものの価値だけでなく、「コンテンツ提供価値」と「リレーション提供価値」も最大限高めたからこそ、今のモスバーガーの成功があるということでしょう。
③コアなファン層を醸成し続ける「アトラス」のブランディング
最後にご紹介するのは、テレビゲーム会社「アトラス」。『真・女神転生』シリーズや『ペルソナ』シリーズ、『世界樹の迷宮』シリーズといったメガヒットゲームを何本もリリースしている、コアゲームユーザーなら知らない人はいない老舗ゲーム会社です。
会社アトラスのこれまでの軌跡は、順風満帆とはかけ離れたものでした。何度かの経営難と、親会社の民事再生に伴って一度は会社自体が消滅したこともありました。ですが、その間も「お客様に感動と満足を提供できるサービスを」と、高品質なゲームを作り続け、めまぐるしく変化する状況に立たされながらも、今では国内のみならず海外からも非常に高い期待を感じさせるゲーム会社として成長したのです。
アトラスのゲームが他のゲーム会社よりも高く評価される理由はどこにあるのでしょうか。まずはゲーム自体の非常に高いクォリティが挙げられるのですが、人気タイトル『ペルソナ』を開発するチームが掲げる以下の標語が、その秘密を物語っているように感じられます。
「be personal for change(人の個性とは世界を変える為にある)」
何かと個性的と言われるアトラスですが、個性的というのは一般的ルールや規範から逸れてしまう…そんな厄介者のイメージもあります。でも僕が思うに、人の個性って、良くも悪くも別の誰かに伝播して、その考え方や振る舞いを変えてしまえる…そんな可能性の力でもあるのかな、と。昨今、何かと息苦しさを感じる世の中かもしれませんが、この世界が人間同士の関係で成り立っている限り、人の個性とか集団の持つ個性こそが、そんな「閉塞感」を打破する「力」にもなり得る――そんな想いを体現するべく、現在、ペルソナシリーズのナンバリング最新作を鋭意開発中です。
アトラス・ペルソナチーム『ペルソナ5』ディレクター 橋野桂氏のコメントより一部抜粋
参照:http://www.famitsu.com/cominy/?a=page_fh_diary&target_c_diary_id=91818
普段あまりゲームをやらないという方は、「ゲーム会社の人たちはこんな風に情熱を掲げて作品を作っているのか!」と驚かれるかもしれませんね。アトラスのゲームファンの人たちは、こういった開発者達の想い、情熱に共感して、今後リリースされるゲームを心待ちにしているのです。こういったところからも、「リレーション提供価値」は育まれるという好事例ではないでしょうか。
まとめ ブランディングとは、「顧客との約束」
さて、ここまでブランディングについてお話しましたが、如何でしたでしょうか。「ブランディング活動の源泉は、スキル的な要素よりも、想いやスタンスによるものが多いのでは」と思われた方も多いかもしれませんね。──実際、その通りだと思います。
私は、ブランディングは「お客様との約束をすること」と言い表すことができると考えています。
つまり、企業は、顧客・消費者の信頼を勝ち得ていくために「私たちは、また私たちの商品・サービスは、~~~といったことを皆様に提供していきます」ということを約束していくこと、それがブランディングと言えるのではないでしょうか。
そして、それは「ブランディングは企業とお客様が一緒になって作り上げていくもの」という考えに繋がります。顧客が勝手にイメージして育つものでもありませんし、企業内においても創業者や経営者の思いを一方的に押し付けるものではありません。
つまり、企業がブランドを通して明確に「約束」するものがあり、さらにブランドに対して顧客が期待するものを理解する必要があるということです。そして、顧客の期待に答え続けることが求められます。そうしたやりとりを続けていくうちに企業と顧客との間に長期的な信頼関係が生まれ、それが強いブランドになるのです。
この記事をお読みになった方々が、ブランディングへの理解を深め、所属する企業にてお役立てられることを、心より願っております。
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LeverageShare編集部
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