なにか新しい役割や仕事を任されて、その対象に対して充分な知識がなかったとき、私たちは「まずは情報を収集しよう」と考え、実行に移します。さて、その「情報収集」という言葉を聞いて、皆さんはまず何を思い浮かべるでしょうか。また、どんな情報収集の手法を考えつくでしょうか。
──おそらく多くの方は「インターネット」を使っての情報収集を思い浮かべるでしょう。たしかに、現代においてインターネット上の情報は膨大に膨れ上がり、「どんな内容でもインターネット検索で見つけられないものはない」と言われるほどになっています。
事実、インターネット上には毎日秒単位で大量の情報が更新され続けています。その量といったら、一説によると現代人が1日に触れる情報量は、平安時代の一生分、江戸時代の1年分とも言われているそうです。まさに「情報過多」の時代ですね。
ですが、それだけ参照する情報量が多くなってくると、今度は「そんな」であったり、「どれだけ情報を収集すれば十分といえるのだろう?」といった疑問や悩みも生じてきますよね。関連した内容で、2011年に総務省が行った「情報流通インデックスの計量」調査では面白い結果を見ることが出来ます。そこでは、インターネット発展後にいかに情報流通量が増大したかを表しており、簡単に説明すると、
「2001年に流通していた情報量を100%としたときに、10年後の2011年の情報量はその倍の約200%まで増えているが、人々の情報の消化ペースは9%程しか伸びていない」
ということでした。つまり、現代社会において「人が処理できる情報の量はあまり変わっていないのに、世の中に出回る情報ばかりが増えている」状況になってきているということですね。
──このような状況下で、私たちの意識・関心は「どうやって情報を集めるか」というよりは「いかに膨大な情報の中から必要な情報を探してくるか」にシフトしていったのです。
さて、皆さんは「情報収集」は上手に行えておりますでしょうか?得意な方もいるでしょうし、「あまりうまくできていない…」という方も多くいらっしゃるかもしれませんね。今回はそんな
「情報収集」について、
1)情報を収集するうえで大切なこと、
2)情報収集のやりかた、技法
について説明していきたいと思います。
1)情報を収集するうえで大切なこと
情報収集するうえで、私たちは何を意識しておくと良いのでしょうか?
情報を収集する際に、多くの人が持つ問題意識──それは「何をどうやって調べて良いのかが解らない…」ということのようです。
インターネット検索したり、関連書籍を読んでみたり、はたまた詳しい人に聴いてみたり…と手段は思いつくものの、それらをうまく整理することが出来なかったり、もしくはその手前で手段の選択肢の多さから途方に暮れてしまったり、といったケースが多いようです。
そのようなとき、はじめに以下の2つの観点を意識することが大切です。
1)-1 情報収集のそもそもの目的を明確にする
1)-2 情報収集の実行から整理まで、計画立てて行う
言葉で示すとなんだか当たり前のような内容ですが、この2点がきちんとできているかどうかで情報収集の精度・品質は大きく変わっていきます。では、具体的にどうすれば良いのかについて、詳しく述べていきましょう。
情報収集のそもそもの目的を明確にする
まず、情報収集する際の「目的」の考え方について説明していきます。例えば、競合他社の製品「○×△」についての情報を収集する、という役割を持ったとき、この場合の「目的」はどうなるでしょうか?
「そんなのそのままじゃないか、目的は【競合他社の製品『○×△』を詳しく知る】ということだよ」
──と思われた方、残念ながらそのままでは最適な目的とは言えません。明確かつ最適な目的を持つためには、【一体何のために競合他社の製品『○×△』を調べる必要があるのか】ということを考えることが必要なのです。
なぜ私たちは「○×△」を調べるのでしょうか? 「○×△」の製品が素晴らしいので、私たちの製品にもその良い点を取り入れようとするためでしょうか?それとも、顧客獲得競争に負けないように、「○×△」の短所や弱点を見出し、そこから私たちの製品の差別化ポイントを見出していこうとするためでしょうか?…もしくは、その両方、ということもあるかもしれませんね。そして目的をどう掲げるかによって、当然ながら必要となる情報は変わっていきます。
このように、情報収集する際は、情報の収集自体を目的とするのではなく「なぜ情報収集を行うのか」といったそもそもの課題意識を持つことが大切なのです。
目的を明確に持つことによって、目的を解決するための「仮説・方向性」が定まりやすくなります。そして、仮設・方向性に沿って情報収集を行っていくことによって、収集された情報の検証・根拠づけに繋がり、それが情報収集の「成果」に繋げられるのです。
- 情報収集の目的を明確にする3つの視点
如何でしょうか。情報収集を行う上では、まず「目的を明確にする」ということが何よりも大切です。…ですが、現時点では目的を定めただけで、肝心の情報収集の作業には入っていません。そこで次は、情報収集の進め方と具体的な技法について説明していきます。
情報収集のやりかた、技法
情報収集はどのように計画立てて、実行していけば良いのでしょうか?情報収集の目的を明確にした後は、早速情報収集を開始します!…ではなくて、その前にどのように情報収集を進めていくかの「リサーチプラン」を決めておくことが大切です。目的に向かってがむしゃらに突き進むのではなく、きちんと計画─実行-検証-改善のPDCAサイクルを回していくほうが効果的、ということですね。
では続いて、計画(PDCAのP)の「リサーチプラン」について説明していきましょう。情報収集のリサーチプランを立てる際、以下の2つの観点が重要になります。
Ⅰ)対象となる情報を、どういった切り口で調べるか
Ⅱ)調べる内容は、どういう順番で、どれぐらいの粒度・深度で進めていくか
例えば先ほどの【競合他社の製品『○×△』を調査する】といった場合では、どういった切り口で調べるのが良いでしょうか。例を挙げると、
・ 製品の概要・特徴
・ 製品のこれまでの売れ行き
・ 想定される開発プロセス、開発コスト、開発体制
・ 市場、顧客の評価(ユーザーボイス)
・ 他製品との相違点・差別化ポイント
・ 想定されるターゲティング、セグメテンテーション、ポジショニング
・ 今後の展開予想(拡販体制にあるのか、地域展開はどうか…等)
…といったあたりが挙がってきそうです。これらの切り口を調査前にリストアップし、どういった順番で、かつひとつひとつをどれだけ詳しく調べるかを前もって定めておく、これが「リサーチプラン」になります。リサーチプランが定まると、おのずと調べる対象も絞られてきます。つまり、「膨大な情報」の中からあたりをつけやすくなる、ということですね。
情報を「探す」技法
リサーチプランを立てた後は、具体的に情報を探していく作業に入ります。ここでは、代表的な情報収取手法をご紹介します。
情報を「探す」技法(1)WEB検索 インターネット検索エンジンを使った情報収集
こちらは皆さんも馴染みのある技法になるかと思いますので、詳しい説明はあまり必要ないかもしれませんね。WEB検索を行う際は、以下の点も意識していくとより効果の高い情報収集が行えるようになります。
・検索キーワードの組み合わせや、代替キーワードを使っての検索
・画像検索(ビジュアル検索)を使いこなす ※ 図表などの参照に効果的です
・情報鮮度・情報発信元の信⽤度を意識しての検索
WEB検索を効果的に実行するためのサービスもありますので、代表的なものをいくつか紹介します。
・ Googleアラート https://www.google.co.jp/alerts
指定したキーワードで新しいニュース情報が発生したときに、自動で通知してくれるサービスです。
・feedly https://feedly.com
興味のあるジャンルに対して、キュレーションサイト(まとめサイト)やブログのまとめ読みが出来るサービスです。
情報を「探す」技法(2)
文献検索 刊⾏されている基本書・専⾨書からの情報収集
時間はかかりますが、より詳しく、深く調べたい事象について調べる際に効果的な技法です。以下のような場合に利用すると良いでしょう。
・WEB検索では調べたい領域が断⽚的にしか集まらない場合
・特定のテーマに対して詳細に様々な角度からの情報収集や洗濯が必要な場合
・様々な視点の意見・考えを調べたい場合 ※著者のバイヤスを踏まえ複数書の参照が望ましい
情報を「探す」技法(3)
記事検索 新聞や雑誌など定期的に発⾏されている媒体からの情報収集
普段から定期的に確認されている新聞や雑誌などの情報媒体をお持ちの場合は特に効果的な収集手法です。以下のようなメリットがあります。
・時系列で事象を追うことで、事業背景を理解しやすい
・企業のIR情報など、同列で類似情報を紹介している場合も多く比較検討しやすい
情報を「探す」技法(4) 公的調査・統計、⺠間調査レポート
⾏政や研究機関が発表している⼤規模定量調査、調査会社が発⾏しているレポート、報告書などの活用も役立つことが多いです。総務省統計局や⺠間調査会社のデータなど、インターネット上で無料で公開されているものも多くありますので、技法(1)のWEB検索と合わせて探してみると良いでしょう。調査会社のレポートは有料のものもありますので、費用対効果を見極めたうえで利用されても良いかもしれません。
「具体的に、どういった情報機関があるの?」という方向けに、代表的なものをいくつか紹介します。
・ 総務局統計データ http://www.stat.go.jp/data/
国勢調査の集計情報から、消費者物価指数など、国や地域の情報をマクロ視点で参照できる情報が多く紹介されています。
・ 矢野研究所 http://www.yano.co.jp/yanoreport/
非常に幅広い業界、業種の市場状況をレポート化しています。
情報を「つくる」「見い出す」技法
ここまでは、「すでにある情報」を収集する技法を紹介しました。ですが、私たちが必要になる情報というのは「まだ(世の中にしっかりと)用意されていないもの」もあったりしますよね。…例えば、「自社製品をご利用いただいているお客様はどれだけ満足頂いているのだろうか?」「なにか不満点は持っていないだろうか?」といった消費者意識であったり、リアルタイムな世の中の動向であったり。このような、私たちが知りたくとも、「まだ一部の人たちの【暗黙知】に留まっているような情報」というのは、結構あるものです。
そこで、続いてはそういった「未だ具象化、形成化されていない情報」を「つくる」「見い出す」技法を紹介していきたいと思います。
情報を「つくる」「見い出す」技法(1)アンケート調査
アンケート調査は、広く消費者や参加者に問いかけ、傾向やクラスターを定量的に把握することができます。有識者の暗黙知を引き出す有効な手法です。この場合は、母集団を多く持つこと、仮設の検証に役立てられる設問を用意すること、そして設問を誘導的なものにしないことを意識することが大切です。
アンケート調査については、専門で実施している企業も多くありますのでそれらを参考にしても良いでしょう。代表的なところをいくつか紹介します。
・マクロミルモニタサイト http://monitor.macromill.com/researchdata/index.html
「ライフスタイルに対する意識調査」をはじめ、消費者の意識・関心について幅広く調査し
レポートとして紹介しています。
・レポセン http://reposen.jp
消費者から企業向けまで多岐に渡って行われているモニター調査をあまねく紹介しています。
情報を「つくる」「見い出す」技法(2)ソーシャルリスニング
FacebookやTwitter、ブログなど消費者が⼤量に、何気なく⾃発的に発信しているところからの情報収集を「ソーシャルリスニング」と言います。近年とても注目されている情報収集手法です。ソーシャルリスニング向けのサービスもいくつかありますので、併せてご紹介します。
・ Googleトレンド https://www.google.co.jp/trends/hottrends
検索の急上昇ワードを確認したり、特定のワードの意識度(検索頻度)を時系列で確認・比較することが出来ます。
・ togetter http://togetter.com/
Twitterで話題になっている内容をピックアップしてまとめて紹介しているサービスです。
情報を「つくる」「見い出す」技法(3)フィールド調査
現地に⾜を運んで実際の場⾯を観察・体験することによる情報収集です。クリエイティブな仕事では、このような情報収集が求められることが多いようです。有名な逸話で、「スタジオジブリ」の宮崎駿氏は、過去に「アルプスの少女ハイジ」を制作する際にスタッフ全員で物語舞台となるスイスに約1年間もの期間ロケハンに行かれたそうです。よく「足を使っての調査」という表現もされますが、「自分自身の五感で体験する」という情報収集が何よりも大切、という場合も多くあるということでしょう。
情報を「つくる」「見い出す」技法(4)インタビュー
アンケートが調査母数を広げて幅広く情報を収集するものに対して、インタビューは一部の有識者や消費者に直接問いかけることによって「深い」情報を収集することが出来ます。集団の行動や思想からでは見えにくい事象や思考を探っていく上でとても有効な手法になります。
まとめ
これからの情報収集で求められるものとは、ここまで記載したことを簡単にまとめてみましょう。
・情報収集は、事前に目的を明確にすること、リサーチプランを立てることを行うことによって品質。精度を高めていくことが大切
・情報収集には、情報を「探す」技法と「つくる、見い出す」技法とがあり、対象の内容・状況に合わせていくつかの技法を使いこなしていくことが大切
本記事をお読みになられた皆さんは今、「情報収集」という行為についてどんなイメージを持たれているでしょうか。私が抱く情報収集のイメージとは、未来の自分たちの行動やビジョンの方向を示してくれる地図のようなもの──すこしロマンチックに言うと、中世の大航海時代における航海図と羅針盤のようなものとして浮かばれます。
未来の自分たちの行動は誰もわかりませんが、予想することはできます。また、希望を以って実現に近づけていくこともできるでしょう。そのようなときに、「情報収集をきちんと行える」ということはきっと、私たちを望ましい未来に向けて推進していく為の手ほどきとなるのではないでしょうか。
皆さんがより充実した情報収集を行えることを、心より願っています。
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LeverageShare編集部
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